研究活動

研究室で行われた研究活動やセミナーなどの活動報告を掲載します。

・炭素・窒素同位体分析による縄文時代人の食性の復元

 縄文時代の遺跡からは,古人骨が見つかることがあります。人の骨は,生前に食べられた食物から形成されています。骨の3分の1を占めるコラーゲンを抽出して,炭素や窒素の同位体比を測定すると,生前の食物摂取の傾向を推定することができます。

 これまでに,本州各地の縄文時代人骨の分析を行ってきました。沿岸部に居住していた集団では,陸上資源や海産物の利用について,食の個人差が大きかったことが分かってきました。食の傾向は,男性と女性で異なっていたり,歯を抜く抜歯風習などと関連している場合がありました。過去の資源利用だけでなく,ひとつひとつの資料を丁寧に分析することで集団の社会関係についても考察することができます。

・ストロンチウム同位体分析による縄文時代の移入者の判別

 人の歯や骨にはストロンチウムという元素が含まれています。ストロンチウムの同位体は,地質によって異なる値を示します。人も食物や水からストロンチウムを摂取します。人のストロンチウム同位体を測定すると,生前に暮らしていた場所の情報が分かります。歯は幼少期に形成されるため,幼少期に住んでいた場所を示し,骨は大人になっても置換されるため,成人期に暮らしていた場所が分かります。一つの個体で歯と骨の値が同じであれば集落を移動していない個体であり,値が異なれば移動してきた移入者であろうと推定されます。この手法を縄文時代人の集団に適用することで,一つの遺跡の中の古人骨に移入者が含まれていることが分かってきました。

総合地球環境学研究所の下記のページでも紹介されています。ご覧下さい。

同位体環境学がえがく世界

 

・哺乳類化石の炭素同位体分析による古環境の復元

 草食動物の歯は,昔の環境を記録しています。植物は光合成により炭素を蓄積しますが,森林の樹木と,草原の草では炭素の同位体比が大きく異なります。これらを摂取した哺乳類の歯の炭素同位体は,植物の値を反映しています。このことを利用して,哺乳類化石の歯の炭素同位体比により,森林か草原か昔の環境を復元することができます。

 アフリカ・ケニアの鮮新世の遺跡から出土した哺乳類化石を分析すると,かなり草原が広がっていたことが推定されました。アウストラロピテクスが見つかっている遺跡ですので,この古人類が草原環境を利用していたと考えられます。